とりすみコラム

匠の技を読み解く ~法隆寺五重塔はなぜ地震で倒れないのか?~

世界最古の木造建築「法隆寺」

法隆寺境内にある五重塔は、地震国日本にあって、1300年以上も創建時の姿を現在に留めています。歴史上、五重塔や三重塔など、木塔といわれるものは全国に500ヶ所以上ありますが、地震で倒れた事例はほとんどありません。1995年の阪神大震災でも、兵庫県内にある15基の三重塔は1基も倒壊していません。

 

★五重塔はなぜ倒れないのか?

まずは法隆寺を例にとり、その構造上の特徴をあげます。

【1】庇の張り出しが大きく、建物全幅の50%以上が庇で、重い瓦屋根となっています。その結果、法隆寺五重塔の総重量は1200トンにも及び、単純平均すれば1層あたり240トンとなります。

【2】五重の各層は上に行くほど細くなっており、各層は下の層の上に乗せているだけで一層ごとに独立しています。※通し柱で各層をつなげていないため、現在の建築基準では違反になります。

【3】中央に心柱(しんばしら)と呼ばれる柱があります。心柱の周囲は吹き抜けになっており、各層の荷重を支えていません。塔全体の荷重は、心柱の周りにある4本の四天柱と12本の側柱によって支えられています。

 

★地震がくると、どのように揺れるのか?

前述の構造を踏まえ、地震がくるとどのように揺れるのか?

【1】庇の重さを支える16本の柱は、礎石の上に置いてあるだけの構造です(※専門的にはピン接合と呼ばれます。)そして、庇の膨大な質量には、慣性力が働きます。その結果、強震が襲っても、建物は振動するというより、むしろ柔らかく揺り動かされることになります。幅広で重い庇は、巨大な安定装置として機能しているのです。

【2】各層がただ単純に重ねられている点も、地震では大変な強みになります。初層が右に揺れると、二層は左に、三層は右にと、互い違いに揺れることで全体で衝撃を吸収する仕組みです。各層がお互いに逆方向にくねくねと横揺れするため、この動きはスネークダンスとも呼ばれます。

【3】五重の各層は接合されていない柔らかい構造ですが、一方であまりにも各階が柔軟になりすぎるのを避けるため、日本の大工たちは、ある独創的な解決法に行き着きました。それが心柱です。
心柱は制振ダンパーの役割となって、塔自体が右に傾こうとすれば、心柱は左に動いて自立を保とうとする効果があり、地震の揺れを軽減します。揺れが大きいと、心柱が各階の床組みにぶつかることで、崩壊するほどの横揺れを防ぎます。
言うなれば、十分な質量のある「振り子」であり、各階の床組みが横揺れしすぎないように歯止めをかけているのです。

 

最後に、法隆寺の解体復元を行った宮大工・故西岡常一氏の言葉を引用します。
「古代の建築物を調べていくと、古代ほど優秀ですな。木の生命と自然の命とを考えてやってますな。飛鳥の工人は、自分たちの風土や木の質というものをよく知っていたし、考えていたんですな。」

西岡氏の言葉から、古代人ほど対象となる建築物への同化度が高かったことがわかります。大陸からきた技術を鵜呑みにせず、風土や木の質に同化し、建物の荷重はもとより、風や地震の横揺れにさえ同化していたと考えられます。この同化力、追求力には、我々も学ぶべき点が多々あると思います。

(斑鳩町観光協会資料より抜粋

 

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